洗濯物を干し終えて室内に戻ると、仁王がラグの上で寝転がっていた。
「こら雅治、そげんとこおったら踏んづけてしまうとよ?眠かならちゃんとソファかベッドで寝なっせ」
「んん〜…?」
カゴを置いて声をかけても生返事しか返ってこない。寝返りを打ったせいでタンクトップからは白い背中が見えているし、下に至っては外出の予定がないからといってパンツ一丁だ。注意をしながらも仁王がもぞ、と片足を動かす様子に思わず目がいってしまう。大きく露出された白い肌とボクサーパンツからぴったりとわかる体のラインに、真っ昼間とはいえむらっときてしまうのは致し方無い。
「…雅治、誘っとうやろ」
自分もラグへ横になり、仁王を後ろから包むように抱き締める。白いうなじに音を立ててキスをした。タンクトップの脇からは色の薄い乳首が覗いていて、はやくそこにむしゃぶりつきたくて手が伸びる。服の中に差し入れた手のひらで胸部を撫でると、こちらを向いた仁王がゆっくりと唇で俺の下唇を挟んだ。眠気と火照りからとろんとした瞳ではむはむと唇を味わう様が可愛くて、もっと蕩けさせてやろうとその両頬を包んで深い口付けに切り替える。ちゅ、ちゅと数回ついばんで、おずおずと出された舌を尖らせた舌先でチロチロとくすぐってやる。それに呼応してきたところでもっと舌を絡めて吸って、お互いの唾液の音がくちゅくちゅと響く。カシャン。そう、カシャンと。
(ん…?)
なんだか今、色欲的な水音の中にやけに機械的な音が聞こえた気がするのだが。うっすら目を開けてみると、仁王の頬を包んでいる両手の間にUの字に鎖がぶら下がっていた。
「…は?」
見れば両の手首にはピンク色のファーの輪っかが嵌められている。どういうことかと手首をそれぞれ左右に張ってみても短い鎖が音を立てるだけだ。
「え?なんね、これ」
「見ればわかるじゃろ、手錠じゃ」
戸惑いからこぼれた独り言に答えをくれたのは仁王だった。
「邪魔されたら困るからのう。暴れても傷つかんように周りにファーがついとるが、そのぶんかなり丈夫にできとるきに。お前でも壊すのは無理じゃろうなぁ」
はっきりとした口調は、つい先程までゆらゆらとまどろんでいた人物とは思えない。そのまま右肩を軽く押されると、何もかもよくわからないままに体はころりと仰向けになってしまう。仁王は腹のあたりに跨ると俺を見下ろして楽しそうに笑った。
「ほーう、いい眺めじゃ。その手錠も似合っとるし、中々かわええのう、千歳」
「…はは、嬉しかねぇ」
俺はその時初めて、ハメられたことに気付くのだった。
「いや、これは俺の才気でもいっちょん気付かんかったばい……なんね、今日は上で踊ってくれっと?」
「さぁのう。なんなら俺が踊らせてやってもええぜよ?」
やっぱりか。動揺を抑え、軽口を叩きながらこっそり手錠を外そうと試みる。しかし言うだけあって強度が違い、自力では壊せそうにない。やはりここまで手のこんだことをするだけあって本気なようだ。心のなかでもう一人の自分が乾いた笑みをこぼす。俺のそんな心境を手に取るように、仁王はニヤリと口角を上げた。
「男は狼なんじゃき、油断したらいかんぜよ」
いつも俺の下で見せる蠱惑的な表情とは違う、男の顔に思わず心臓が跳ねた。ことごとく想定外だ。
「あ〜……ほんなこつむしゃんよかねぇ」
「なんじゃ、惚れなおしたか?」
「最初から骨抜きばい」
「ははっ!知っとる」
そうだ、すっかり忘れていたが、俺はとんでもない詐欺師と付き合っているのだった。ああもう、こうなったらどうにでもなれ。男は度胸、毒を食らわば皿までだ。彼が相手なら最後の一滴まで舐めとってやろうではないか。いや、どちらかと言えばこれから食われるのは俺のほうか?次の瞬間重なった唇で、俺たちはまた互いに毒を交換しあうのだった。
(20111105)
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