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ほぼヤッてるだけです。




名前も知らないその男は、ベッドの上でよく跳ねた。街で声をかけた時のクールな印象とは裏腹に、唇を重ねると自らうねる舌を絡ませた。互いの衣服に手をかけながら、ほぼなし崩しにベッドに倒れ込む。
下でチェックインする際に部屋の希望を聞くと「どこでもいい」とやけにぶっきらぼうだったのはてっきり気乗りしないからだと思っていたが、ただ焦れていただけなのかもしれない。男にしてはなめらかな肌をまさぐりながらそんなことを思った。
乳首を強めに摘めば男は甲高い声と共に体をくねらせる。肉を目の前にした飢えた獣のように、反った白い喉に噛み付いた。そのまま舌先で首筋をなぞり、口元のほくろを食むように口づける。しばらくほくろを愛でていると男が伸ばした舌が鼻先に触れたので、お強請りにこたえてその薄い唇に吸い付いた。
興奮でみっともない程に息が荒いが、見てくれなんて気にならない。所詮は一夜限りの関係だ。今は理性など足かせにしかならないことを俺たちは知っていた。垂れる涎があるならたっぷりと絡めて愛撫に使えばいい。
ラブホテルの一室で、剥き出しの二つの本能だけが絡み合っていた。
「お前、思ったとおりのやつじゃったわ」
「ん?どげん意味ね」
男は腰にタオルを巻いたまま俺の隣に腰掛け、ビールをねだった。行為を終えて、先に風呂に入るよう促したのだ。
俺は手に持っていた缶ビールをあおり、そのまま男にくちづける。蜂蜜色をした炭酸が口端から漏れ、首筋を伝うのも気にかけず舌を絡めた。最後に思い切り舌を吸い上げて唇を離す。男の喉仏がごくりと上下した。
「随分けちくさいのう?」
「あんま金がなかけんすまんね」
言葉遊びが気に入ったのか、男は舌なめずりをして笑う。対面座位をするように俺にまたがり、再度口づけた。心地よい重さに流され、男が俺に覆いかぶさる形でベッドに倒れ込む。
互いに薄目を開け、ついばむようなキスを幾度も重ねた。安っぽい部屋にわずかな声とリップ音だけが満ちていく。
「お前みたいに刹那的な生き方しとるやつ、嫌いじゃなかよ」
手のひらが心臓の上に置かれた。男は顔を僅かにずらし、俺の首元に強く吸い付く。ちりっとした痛みが走った。
「はは。なんね、これが消える前にまた会ってくれっと?」
「見つけてみんしゃいよ」
体の表面を滑るようなやり取りが、俺たちにぴったりだと思った。
「まあ、これからしばらく行動範囲を変えるがな」
腹筋にまたがる男は俺を見下ろして笑う。銀色の髪の毛が照明に透かされ、淡く発光しているようだった。
「そりゃあなかなか、無理難題ばいね」
男は再度口元を吊り上げるとベッドを降り、足元に脱ぎ捨てていた衣服を手に取る。パンツに足を通す様を横目で見ていた。この期に及んで白い尻を目に焼き付けようとする自分が滑稽だ。
「俺もう行くきに。お前は?」
「まだ時間あるけん、もうちょいゆっくりしていくばい」
「そうか」
男は衣服を整えると、ベッドサイドに置いていた財布と携帯をズボンの後ろポケットに突っ込み部屋を後にした。
ベッドに横たえた体はそのまま、一人の部屋に静寂が落ちる。
(そういや、ヨかったっち言うの忘れたばい)
ベッドサイドに手を伸ばした。間接照明の中発光する携帯のディスプレイには、登録されたばかりの見慣れない名前と連絡先が一件。これからいかに運命を演出するか、悩みどころだ。

(20120205)