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あか→やな描写とダビ→バネ描写を含みます。




 負け組が二番コートとして帰ってきた。その報せを聞いて俺は今宿舎の中を走りまわっている。越前リョーマや真田副部長に率いられて帰還したその中には、確かに自分があれからずっと気になっていた彼の姿があった。その姿を確認するやいなやどこかへ姿を消してしまったあの人を探して、俺は試合後で疲弊しきった体を引きずり宿舎を駆けずり回っている。 どこに行ったのだろう。まさかこんなに早く部屋を手配してもらっているとは思えないから、食堂かシャワールームか?
 ない頭を振り絞って考えるよりいっそ先輩の誰かに聞いたほうが早いかもしれないと思ったところで、ちょうど先の自販機の角に彼に似た背格好が消えるのが見えた。
「っ、柳さん!?」
はやる心を抑えてばっと角を覗き込むと、目を見開いたのは予想外の人物だった。
「っな、何だいきなり…!」
「え、あっ、天根ぇ??」
この歳にしては無駄にデカイ図体を強張らせて薄暗い非常階段に腰掛けていたのは、千葉の古豪、六角中のダビデこと天根ヒカルだった。
「あー…いや、人違いだ。ワリィ」
身長こそ近くても、髪の色から体つき、顔の作りまで自分の捜している人物とは似ても似つかないこいつをどうして間違えてしまったのか。そのあまりの間違い加減に自分でも脱力してしまい、自販機でジュースを買ってひと休みすることにする。
「…誰か探していたのか?」
「ん、まぁな…ってかお前こそ、何でこんなジメジメしたとこいんの?」
 俺の記憶違いでなければ、確かコイツも帰ってきた負け組の中に先輩がいたはずだ。
「えーと誰だっけ、あ、黒羽サン?だっけ」
 名前を口にすると、また天根の体が少し強張る。本当にコイツは変なやつだ。ダジャレが好きで凝っているとかいうことくらいはさすがに知っているが、それ以外は個人的にも交友が少なく、よく考えればこうしてふたりで話すのは初めてかもしれない。そう言えば六角は少数精鋭のため仲がいいことで有名だが、この合宿には天根と黒羽しか参加しておらず、ずっと黒羽の後ろをついてまわっていた気がする。彼がいなくなってからは、以前試合をしたことのあるらしい桃城と一緒にいるのをたまに見たことがあるくらいで、他の特定の誰か、ましてや二年生と仲良くしているのは見たことがなかった。
「あんだけ仲よさそうだったのに、会いに行かなくていいのかよ?」
何を聞いても天根は気まずそうにうつむくだけだが、ここにきて俺はその理由をなんとなく理解した。
「…あ、そりゃちょっと気まずいよな。俺は先輩に勝ちを譲ってもらったようなもんだけど…いや、それもスゲー腹立つんだけど。お前普通に勝負して勝っちまったんだもんなあ…確かにそりゃ気まずいわ」
俺としては中々的を射た意見を言ったつもりだったのだが、天根はふるふると首を振ったかと思えばよくわからないことを言い出す。
「え、何。ちげえの?」
「…バネさんは、俺のヒーローだ」
「はぁっ!?いや、ヒーローも何も、げんにお前が勝っちまってんじゃん」
「ちがう。バネさんはずっと、卒業しても大人になっても、オジイみたいになってもずっとずっと、俺のヒーローなんだ」
天根は手に持った缶をぎゅっと握りしめてそんなことを言う。
「…ふーん。まあ別に何でもいいけど、今のお前、ヒーロー語るような顔してねえぞ」
俺はこんなに苦しそうにヒーローを語るやつを見たことがない。それを聞けば天根ははっとした後に、バツが悪そうに目をそらす。
「……ヒーローが、拾い食いしたから」
「はあっ!?おま、お、俺はつっこまねえからな!」
いつものツッコミが恋しいならお前も会いに行け!と飲みきった缶を捨ててその場を後にする。本当に最初から最後までよくわからないやつだった。
適当に歩きながら、次はどこを探そうかと頭を動かすと、ふいに先程の天根の言葉が蘇る。そういえば『卒業』なんて考えもしなかった言葉だ。けれど実際彼らは、あと半年もしないうちに行ってしまうのだ。それも、俺一人だけを残して。今は笑顔の恐い部長やいちいち口うるさい副部長が、こうして疎んじるほど身近にいるぶんその事実を肌で感じることは少ないが、もしかするといずれ自分もさっきの天根のような顔をすることになるのだろうか?だとしたらその時、あの人はどんな顔をするのだろう。そんなくだらないことを考えた頭の中で、思い浮かべたかの人は変わらず涼やかに笑っていた。

(20110726)