Information
R18 年齢制限にご注意下さい。
「とこしえユガミズム」と同じ設定です。




 なにか面白いものはないかと昼時のテレビ番組を適当にザッピングしていると、地域のローカルチャンネルで通販番組がやっていた。内容は国産牛切り落とし詰め合わせセットだか何だかで、焼肉だのすき焼きだの色々な調理方法が紹介されている。炭火であぶったそれを見せつけるように口にしたデモレーターが肉の食感と口どけがいかに素晴らしいかを説きはじめたところでテレビの電源を切った。同時に腹がおあずけをくらった犬のようにぐるるるる、と鳴り、リモコンを放り出しソファに寝転がった。おあずけをくらっているのは本当だ。家に買い置きが何もなく、食材があったところで料理をする気にはなれないから千歳が外に弁当を買いに出かけたのだが、一向に帰ってこない。
(あいつどこまで行っとんじゃ…)
寝返りをうつ気力もなくしばらくだらだらしていると、ようやく玄関から「ただいま」の声が聞こえた。
「もう、どこまで行っとったんよ!」
「遅くなってすまんね。ほれ、買ってきたばい」
リビングへ入ってきた千歳は弁当屋のロゴが入った袋をテーブルに置き、俺も起き上がってそちらへ向かう。中を取り出すとハンバーグ弁当と唐揚げ弁当が入っていた。
「は…?俺、焼肉弁当頼んだんじゃけど」
「それはわかっちょるばってん、俺が行った時にはもう売り切れとったとよ。だけんもうちょっと先の店まで行ってみたばってんそっちのほうがえらい種類少なくて、しょんなか思っち元の店戻ったらめぼしいん全部売り切れとったと」
すると千歳は自分はどっちでもいいから好きなほうを選べと言う。しかしその態度に俺はまた悪癖が出てしまうのだった。
「はぁ!?なんなんそれ。俺焼肉弁当がええって言うたじゃろ!だいたい最初の店にないなら何でその時点ですき焼き弁当とか買ってこんのじゃ!!俺が腹減っとるんわかっとるじゃろ!」
先ほど通販番組で見たうまそうな肉の余韻もありついつい八つ当たりしてしまうが、もちろん千歳はそんなことを知る由もない。帰って来ていきなりの仕打ちにむっと皺が寄った。
「なんねそれ、そぎゃんこつなら雅治も初めから言っとかんね!あの店昼は混み合うっち知っとうっちゃろ!そぎゃん文句言うくらいなら自分で買いに行きなっせ!」
「それこそ何じゃそれ!お前俺が一人で外出て変なおっさんにさらわれて犯されてもええっちゅうんか!!」
「だけんなしていっつもそげな極論になると!?あーあーこげな淫乱つかまされたおっさんが可哀想たい」
「何じゃと!!」
「で、結局どっちにすっと?」
千歳は俺の言い分を軽くあしらい両手にひとつずつ弁当を持つ。確かに今のは極論だけれど、本当に俺のことが好きなら、もう少し真剣に考えてくれてもいい話題だと思うのだ。愛情の確認をないがしろにされた感じもまた気に食わなかった。
「千歳のボケナス、すかぽんたん!!カラアゲ!!」
もはやいつものかんしゃくとして気にもとめていない千歳の右手から唐揚げ弁当をひったくった。

ふたりで弁当を食べはじめ、残った数個のうちの唐揚げをかじった時、俺の視線を感じたのか千歳がこちらを向く。
「なんね?」
「やっぱり俺もハンバーグ食いたい」
交換して、と残り半分になった弁当を差し出すと千歳は呆れたように笑った。
「まったく、ほんなこつしょんなか子ばい…よかよ、はい」
「あんがと」
ぶっきらぼうに礼を言って弁当を交換する。唐揚げと同じく半分になったハンバーグに箸をつけ、俺がかじった唐揚げも千歳の口に飲み込まれていく。たったそれだけのことが、幸せとしか言いようがなかった。食べかけの弁当を咀嚼しながら、こうして家にいる時だと比較的素直になれるのに、と思う。一旦外に出ると自分以外の誰もが千歳に気を持っているように思えて、だからこそ千歳が少しでも俺から目をそらそうものならすぐにヒステリーを起こしてしまうのだ。
だって惚れた欲目でも何でもなく、千歳はいい男だ。この弁当の件に関してだって本当は、俺の注文に応えるために他の店まで足を伸ばしてくれたのが嬉しかった。少々奔放すぎるきらいはあるが優しくおおらかな性格で、それを抜きにした精悍な体躯と顔つきだけを見ても千歳に抱かれたいと思う女はごまんといるだろう。子供じみたかんしゃくで気を引きつけておきながら、内心では千歳も俺にうんざりしているのではないかと不安にかられて、ネット上で相談したこともある。(もちろん答えてくれるのは画面の向こうの見知らぬ人間なので、真剣な励ましもあればひやかしもある。『彼は貴方にいつ別れを切り出すかタイミングを見計らっています』なんて解答を見た時には頭に血がのぼってキーボードをバンバン叩き危うくパソコンを壊してしまうところだった)
千歳と付き合いだしたのは中学の頃だが、初めての恋人が千歳というわけではない。俺は結構なマセガキで千歳の前に付き合っていた奴が数人あって、その中には男もいたし女もいた。けれどそのいずれにも持ち前の悪癖を発動してしまい、みな口を揃えて『こんな奴だとは思わなかった』と捨て台詞を残して去って行った。なにがこんな奴だとは思わなかった、だ。理想の俺を勝手に押し付けたあげくまるで詐欺にでもあったような口ぶりで、被害者ヅラをして去っていく背中を嘲った。人の上っ面しか見ようとしない浅薄な背中を嘲りながら、一人で泣いた。そして誰にも本当の俺を愛してもらえないのなら、次はいつまでも皮をかぶり続けようと思った。しかし染みついた人の性格がそう簡単に変われる訳もない。俺は次に付き合った相手にも同じ失敗を繰り返した。


「んあ、ぁあっ…!」
全裸に剥かれたベッドの上、乳首を掠めるように胸部全体を撫でられて思わず腰が揺れた。
「気持ちよか?」
「ぁう、あ、いいぃ…っ!」
時間ももう遅い。本来なら声がもれないように抑えないといけないのだが、千歳に触られると理性の檻が溶かされてしまってどうしても甘えた声が口をつく。普段の虚勢が嘘のように身を委ねる俺に千歳は喉を鳴らした。
「正直な子は好いとうよ。いっぱい気持ち良くしちゃるけんね」
ご褒美だと言わんばかりに乳首に吸い付かれ、舌でコロコロと転がされる。もう片方は親指と人指し指で捏ねられ、それぞれぬめった舌と乾いた指でなぶられるコントラストに頭がチカチカした。胸に埋まった千歳の頭を掻き抱く。
「あっあっああっ!ちっ、ちとせぇ、した、下もぉ…!!」
あさましく体をくねらせて更なる快楽をねだる。
「はは、もう我慢できんとや?雅治はほんなこついやらしか子ばい」
片足の膝裏を持ち上げられ、性器の下にローションがかけられる。千歳の長い指がアナルのふちをくるくるとなぞった。
「あんんっ!ちが、そっちやなくてぇ…!」
「ん?そげんこつ言うてもこっちもきゅうきゅうしちょるばい。ちんこもぴくぴくしとってむぞかねぇ」
半勃ちになった性器の先端を親指で撫でられる。その刺激に鼻から抜けるような高い声が出た。
「ははっ!今の声たいぎゃむぞかよ。また不意打ちですっけん聞かせなっせ」
「っ、もう!あっ、うあぁああっ!」
軽口を叩く頭をはたくと、いよいよ指がアナルの奥まで挿入される。人指し指が中でくにくにと曲げられ、背中が弓なりにしなった。次に中指、薬指と三本の指が入るようになればいよいよ頃合いだ。千歳は自身の下着に手をかけながら手探りでデスクの上のゴムへ手を伸ばし、俺も千歳が挿入しやすいように少し足を広げて待つ。しかしいつまでたっても千歳の腕はデスクに伸びたままだ。
「…どうしたん?」
「いや、何かゴム出てこんくて…ちょっとすまん」
覆いかぶさっていた大きな体がどいてデスクにあるゴムの箱を手に取るが、振ってもうんともすんとも言わない。
「ああ、そういやこないだ使い切ったとね…俺ん部屋に新しいやつあるけん取ってくるばい。ちょっと待ってなっせ」
千歳は取り出したイチモツを再度しまい、部屋を出ていこうとする。
「別にゴムなくてもええぜよ。ナマでええきに、早うしたい」
「だけんすぐ取ってくるばい」
俺は全裸で足を開いて待っているのに、このままでいいと言ってもゴムに執着する千歳にまた火が点いてしまう。カッときて手元にあった雑誌を思い切り投げつけた。
「痛っ!!何ばしよっと!?」
「それはこっちの台詞じゃ!俺がナマでええ言うとんじゃきさっさとヤればええじゃろうが!!」
「だけん俺は雅治の体んこつ思っち」
「はっ、俺ん為とか言ってどうせ自分が尿道炎とかなるんこわいだけじゃろ!大体ほんまに好いとったらゴムつける間も惜しいとか思わんの!!?あーもうええ、冷めた」
ベッドから降り、脱ぎ捨てたままだった下着とズボンを身につける。そして適当なシャツを羽織り、タンスから歯磨きセットや下着を数枚取り出して鞄につっこんだ。
「は?どこ行くと?」
「柳生んち。しばらく帰らんから」
激情に任せてつい口を出た発言だったがもちろん嘘だ。そもそも22時には一家揃って完全就寝してしまう柳生家を今から訪ねられるわけがない。せいぜい飛び出して一人になると途端に襲ってくる自己嫌悪に苛まれ、近所の公園を散歩してこっそり帰ってくるくらいが関の山だろう。
「じゃあな」
鞄を肩にかけ千歳の脇を抜けると肘のあたりを掴まれる。
「それ、本気で言っとうと?」
「俺はいつだって本気じゃ。離しんしゃい!!」
掴まれた腕を振りほどこうとしてもぴくりとも動かなかった。込められた力の強さに目を丸くしていると、そのまま腕を引かれ後ろに放り投げられる。一瞬体が浮いて、背中から飛び込んだベッドのスプリングが大きく跳ねた。
「いっ…!何すんじゃ!!」
乱暴な扱いに声を荒げると、覆いかぶさってきた千歳が俺の両手をベッドに縫いつける。
「出ていくげなこつ、俺が許すち思っとうと?」
「なんじゃそれ、何でいちいちお前に許可もらわないかんのじゃ!!大体コクってきたんもお前からじゃし、俺はずっと付き合ってやっとっただけじゃ!!離せ!!」
まるで俺を操り人形みたいに言う千歳の口ぶりに無性に腹が立ち必死に暴れる。
「そう…雅治ん気持ちはよぉくわかったばい。今まで甘やかしてきた俺が悪かったと」
しかし千歳は俺の抵抗など意にも介さず、赤子の手をひねるように軽々と両手を頭上でひとつに纏めてしまった。
「そぎゃんナマのよかならナマでぶちこんじゃるけん、自分が誰のもんか、しっかり噛み締めなっせ」
落ち着いた声とは裏腹にぎらぎらと、どろどろとした底の見えない獣性に満ちた瞳に、思わず喉の奥が鳴った。
ベッドと尻の間に手を突っ込まれ、下着とズボンを一気にずり下ろされる。 「ぅあっ!?や、あううんっ!!」
性急な手つきに抵抗の声をあげる間もなく強引に口づけられる。下ろされた衣服は膝で止まっているので膝頭がくっついて、ハの字に開いた足の上から千歳がのしかかってきているような状態だ。女のように内股で強引に組み敷かれている様が耐えられず首を振るが、唇が外れることがあってもそのまま激しく口周りを舐められるので呼吸すらままならない。そんな中いきなり性器を高速で扱かれて体が跳ねた。
「んむ!っぷ、んんんうう!!!」
ぬめる舌に口を塞がれ喘ぎ声も出せず、千歳の手の動きが緩まることもない。鼻からもれるくぐもった高い声だけが、襲いかかる快感を少しでもやりすごす術だった。次に唇が離れた時はお互い肩で息をしていて、ようやく口を開いた千歳は「邪魔ばい」と独り言をもらして、未だに途中で止まっていた俺の下半身の衣服を完璧に足から引き抜いて後ろへ放り投げた。そのまま自身も下着を脱いで勃起した性器を数回扱くと、先ほど解したままだった俺のアナルへあてがう。
「ぁあっ…ゃ、いやじゃあぁ……」
「駄目ばい。雅治は嘘つきだけんね、いっちょん信用ならん」
千歳は性急な刺激にすすり泣くような俺の声を一刀両断して、大きな性器を本当に『ぶちこむ』という言葉通り一気に根元まで突き入れた。
「あああぁあぁああッ!!?」
胎内に埋まった圧倒的な質量につま先が痙攣する。ぴゅくん、と精液が飛んだ。
「ほら、すぐトコロテンしよる。やっぱり雅治の嫌じゃは信用できんばい」
そのまま俺の膝裏を持ち上げ、赤ん坊がおしめを取り替えるような体制にする。膝頭が肩までついてしまいそうなほどに尻が上がり、千歳は激しく腰を動かした。体位のせいで本来なら当たらない奥の奥までゴリゴリと容赦無く貫かれ身も世もない声が出たが、すぐさま件の口づけでそれもふさがれてしまう。行き場のない快感が体中を暴れ回って、脳みそがどろどろに蕩けてしまいそうだった。
「望み通り奥まで種付けしちゃるけん、しっかり受取りなっせ」
そのすぐ後、胎内に熱い飛沫の広がりを感じた。ぴくぴくと小刻みに震え、呼吸をするにも精一杯な状況の中でもアナルは千歳の言葉に応えようとするかのように懸命に収縮する。一発目の射精が終われば今度は体を横たえられてそのまま、次は騎乗位、次は駅弁とこの日のセックスは尽きることなく続いた。バックもやった気がするが、体に力が入らなくてほぼつぶれたカエルのような格好になっていたと思う。それでも途中で解放されることはなく、まぐわいは俺が気を失うまで続いた。その時ベッドの上にあったのは、本来理性を脱ぎ捨てる性行為から更にわずかに残っていたモラルや外聞への取り繕いまで剥ぎ取った独占本能だけだった。
『俺の嫌は当てにならない』と言われたが、癪だが本当にその通りだ。俺は容赦無く叩きつけられる欲望にむせび泣きながら、千歳になりふりかまわず愛されているという実感で指先まで満たされていたのだから。


(……いつまでヤっとったんじゃっけ…)
本当にこのまま抱き殺されてしまうのではないかと思った夜もいつの間にか終わりを告げ、目を覚ましたのは翌日の昼頃だった。意識を飛ばず最後のほうに、部屋のカーテンの隙間から白んだ空が見えた気がする。
「うお…いったいのう…」
あまりに平和な目覚めに、もしかしたら全て夢だったのかもしれないと思うが、半身を起こした時の腰、というか尻のズキズキとした痛みが何よりも現実だと言っていた。行為の時間の割に声が掠れていないのは、一晩通してほぼ口づけされていたためだろう。見ればどうやら千歳がベッドの下に布団を敷いてくれたようだった。あのシーツは洗ってももう使い物にならないだろうから、替えを出さないといけない。どこにしまったっけかと頭を掻きながら隣を見ると、千歳が横にも縦にも布団からはみ出しながら口を開けて寝ていた。掛け布団を持ち上げると俺はパンツだけ、千歳はすっぱだかだ。腹にも精液が残っている様子はないし、後始末は全てやってくれたのだろう。
(ま、当然じゃけどな)
何しろ昨日の千歳は本当に獣じみていた。少しひりひりする唇を撫でた。そのまま起こさないようにゆっくりと部屋を出て、隣の千歳の部屋へと向かう。布団はここから取ってきたらしく、押入れの襖が開けっ放しになっていた。きょろきょろと狭い部屋を見渡すが、目当ての物は見つからない。
「なんじゃ、あいつどこに置いたんじゃ」
棚の引き出しをすべて開けてもめぼしいものはなく、首をひねっていると部屋の隅、ミニテーブルの足元に置かれたダンボール箱が目に入る。
(…まさか)
そのダンボールをテーブルの上において封を切る。やけに大きな無地のダンボールで、発送元は名前も聞いたことがない電気屋だった。
「やっぱり、あいつ…ついにやりよったな……」
中身は予想通り、喧嘩の発端となったコンドームだった。それもゴムにしてはかなりの大箱で、同封されていた領収書を見るとアダルトショップの店名と商品名のあとに(業務用)とご丁寧に書かれている。また一瞬『俺とのセックスを安い業務用で済まそうとしとんのか!』ともう一人の俺が顔を出すが、ここは深呼吸だ。だってこれは、千歳がこれだけの回数俺とセックスをしたいと思ってくれている証なのだから。
いくつか連なったパッケージからひとつ切り取り、ペン立てから一本ペンを取る。しかし油性なのだがインクがカッスカスで満足にその役目を果たしておらず、あいつはどうしてこういうものを取っておくのかと甚だ疑問である。結局うっすらとしか書けなかったが、じっくり見られても恥ずかしいのでちょうどいいだろう。
もう一度自室に戻って、変わらずのん気に眠りこけている千歳の横にもぐりこんだ。先程のゴムをふたりの間に置く。
「…アホ面」
鼻をつまめば「ふごっ」と変な声を出すものだから、思わずくつくつと笑ってしまった。大の字で横になっている千歳の右手と自分の左手を繋ぐ。少し力を込めれば無意識なのだろうが千歳もむにゃむにゃと握り返してきて、その様にまた一つ笑った。
「お前は本当に、俺のこと好きじゃなぁ…」
すり、とあたたかな体温に寄り添って瞳を閉じる。目が覚めて次に抱いてもらう時はきっと、素直に首に両腕をまわせると思うのだ。ゴムに書かれた『ごめん』の薄い文字を見て、どうか笑ってくれますように。誰も本当の俺を愛してくれないと諦めた矢先、また同じ失敗を繰り返した俺を、そして未だに失敗だらけの俺を何度だって抱き締めてくれる、愛しい人。

(20111102)